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 はんぷくトリオの爆裂鼎談

2005年8月11日 西麻布「なか田」にて収録
採録・構成:プレノンアッシュ

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ゴダールはムンムンだ!


青山・阿部・中原 (席に着くなり)ハァ〜。

― あれ、皆さん、お疲れですか? 「文學界」の鼎談で、2時間も話してこられたばかりで、もう語り尽くしちゃった感じ?

青山 いやもう、ね、大丈夫ですよ。

阿部 語りつくせない映画ですよね。

― 「文學界」ではどんなお話になったんですか?

阿部 いや、すごい真面目に『アワーミュージック』を分析してきましたよ。『アワーミュージック』の可能性と中心についてズバリと。これをお読みになる方は、是非そちらの方もお読みくださいと書いて下さい(笑)。

― ゴダール自身が語っているんですけど、昔は世界で20万人の友人たちに向けて映画を作ってきたけれど、今ではその数ももう減ってしまっただろうと。日本で一番ヒットしたゴダール映画は『カルメンという名の女』で、シネヴィヴァン六本木で3万7千人も入ったんですよね。今ではまず望めない数字です。でも、『アワーミュージック』はフランスですごいロングランをしたんですよ。で、驚いたのは、パリの小さな映画館に行ってみると、若い人達で熱気ムンムンだったらしいんです。

青山 熱気ムンムン!

阿部・中原 熱気ムンムン(笑)!

阿部 そうなんですよ。生き生きとした映画なんですよね。

― 久しぶりに若い人が出てますし。

青山 やっぱりあの、チラリズムが効いたのかな。天国篇のオルガが履いてるスカートにスリットが入っているんですよね。

阿部 青山さんはチラリズムの人だから(笑)。僕はやっぱホットパンツとかに注目しちゃう人なんで、天国篇でバレーボールのホットパンツと水着の女の子のおしりがプリッとしてるのがいい。上がっちゃってる訳ですよ、水着が。動いてるから。あれをさっと収めてるとこなんか。

青山 だってキャメラ腰高だもんね。

阿部 明らかに中心に置こうとしてる訳ですよ。横移動ですよ。

青山 天国といえば、おしり!みたいな。

阿部 そう、天国といえばおしりです!
 
青山 太ももなのかもしれないね。

阿部 ああ、太ももあたりかも。

中原
 足フェチなんですかね。

青山 足フェチって、普通はここ(膝)から下じゃん。

阿部 いや、煉獄篇で、わりと何度も足は撮ってるんですよ。

青山 ああそうだ。プレスシートに載ってるインタヴューでも、階段を下りてくる足が五線譜に見えるって、テキトーなこと言ってたよね。

阿部 ああは言ってるけど、単に足を撮りたかったんじゃん、ていう。あ、『アワーミュージック』の主題はたぶん足ですよ。というのも、だから交通機関なんですよ。足撮っとこうぜって。

中原 サラエヴォのあのピンク色の建物があるじゃないですか、あそこを何度も通るんですけど。

青山 えっ? サラエヴォ行ったことあるの?

中原 ないよ。

青山 ああ、そうか。画面上の話か。

中原 よく見る風景だなあと思って。長崎屋とか。

阿部 長崎屋!?

青山 もうちょっと分かり易く(笑)ごめん。どこの長崎屋のこと?

中原 国道沿いの。長崎屋とかイトーヨーカドーとか。

青山 潰れたスーパーのこと言ってんの?

中原 「あるんだ、サラエヴォに」って思って。

阿部 まあ、あるんですよ。

青山 まあ、日本は戦争してないけどね。ひどい話だね(笑)とんでもないね。

阿部 さっきゴダールがあんまり観られないようになってきたっていう話がありましたけど、でもアメリカ人はみんなゴダール好きだって言ってたじゃないですか。

青山 アメリカ人はみんなゴダール好きだよ、実は。映画ファンはみんな「ゴダール、オーケー」だよ。田舎の人は観ないだろうけど。

中原 でもさっきホワイト・トラッシュも観てたって。

青山 都市部のホワイト・トラッシュが好きなんだよ。フィラデルフィアのホワイト・トラッシュの若者が俺に「ゴダール、オーケーだよ」って言ったんだもん(笑)。

阿部 何を見て、どんな文脈でその話になったの?

青山 『レイクサイド マーダーケース』を観に来てくれた客が、他の作品も観てくれてたらしくて「『レイクサイド』はゴダールっぽくないけどお前ゴダール好きだろ。俺もだ」って言われて、「ああ、そうなんだ」って。

中原 アメリカで青山映画を支えているのは、知識層だって。

阿部 それがホワイト・トラッシュ層だったってこと?

青山 ホワイト・トラッシュさまさまだよ(笑)。

阿部 そういう人はトレーラーとか住んでるんだ。そういうトレーラーハウスでDVDを見るしかない人達が、『ミリオンダラー・ベイビー』の家族みたいな人達が、青山さんの作品をアメリカで支えてると。そうだったのか。

青山 ゴダールも支えられてるんだ、そういう人に。アメリカではね。

中原 じゃあインテリは何を観るんですかね。

青山 インテリはね、ゴダールとかもう古いとか言ってるんですよ。

中原 何、観るんですか?

青山 特筆に値するインテリがね、生涯のベスト・ワンは篠田正浩の『夜叉ヶ池』って。

阿部・中原 エーッ、ホントかなぁ、絶対、ネタ仕込んでる! ウソでしょ。

青山 いや、これはもう、ホント事実。これ以上は何も言わないけどさ。ああ、そうですかっていうしかないじゃん。

中原 何が良かったんだって?

青山 終生、研究に値するって。それ以上は聞かないよ。もう、ああ、そうですかっていうしかないし。個人の趣味だってあるしさ。

阿部 まあね。

 


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青山 真治
(あおやま・しんじ)


1964年生まれ。映画監督。
立教大学在学中に8ミリ映画の製作を始め、卒業後映画界入り。助監督、批評家を経て、『Helpless』で劇場映画デビューを果たす。『EUREKA(ユリイカ)』は第53回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞とエキュメニック賞をダブル受賞し、その後に発表した同名の小説で第18回三島由紀夫賞受賞した。2003年10月に小説『Helpless』を出版。
その他の作品に『レイクサイド マーダーケース』、ホラードラマシリーズ『ダムド・ファイル』のスペシャル版として『地球の想い出』などがある。
阿部 和重
(あべ・かずしげ)


1968年生まれ。小説家。
『アメリカの夜』で第37回群像新人文学賞を受賞しデビュー。
その後、『無情の世界』で第21回野間文芸新人賞を、『シンセミア』では第15伊藤整文学賞、第58回毎日出版文化賞をダブル受賞し、『グランド・フィナーレ』で第132回芥川賞を受賞した。その他の著書に『インディヴィジュアル・プロジェクション』『ニッポニアニッポン』『映画覚書vol.1』などがある。
中原昌也
(なかはら・まさや)


1970年生まれ。ミュージシャン・作家。
「暴力温泉芸者」、「ヘア・スタイリスティックス」として音楽活動を展開。2001年に『あらゆる場所に花束が…』で第14回三島由紀夫賞を受賞する。著書としては小説『マリ&フィフィの残虐ソングブック』、映画評論集『ソドムの映画市 あるいはグレートハンティング的(反)批評闘争』『エーガ界に捧ぐ』『続・エーガ界に捧ぐ』、対談集『サクセスの秘密』などがある。